本連載第3回、第4回で、アメリカでは、メーカー主導型の長期延払い制度が客先にとって買いやすいシステムであり、売上拡大に極めて効果的であることを述べ、また、この制度の確実かつ安全な運用のために統一商事法典(U.C.C.)について略述した。
今月号では、景気低迷時の売上拡大のための販売促進キャンペーンとして、アメリカで積極的に活用されている長期延払い制度を紹介する。また、その際発生する滞留売掛債権を最小限に抑える機能、とりわけ主要な役割を果たす受注条件の設定、受注審査、中古返品機管理体制などについて説明する。これらの管理システムと次回紹介する売掛金回収システムを適切に運用して、売上の拡大と債権回収リスクの低減という両立し難い目的を達成する方策を考える。景気の低迷が伝えられるアメリカ市場で、売上の拡大を図る企業の参考に供することになれば幸いである。
機械設備などを買いやすくかつ売りやすくするためには、支払条件の緩和、とりわけ客先からの機械代金の支払をできるだけ遅くすることである。材料を購入し、機械を稼動して、製品として販売し、そして売掛金の回収が完了した後に機械の支払を開始することができれば、多くの購入希望者は機械の購入をすることに躊躇することはないであろう。ことに、部品代金や人件費の支払の後まで機械代金の支払を延ばすことができれば、将来の可能性を信じるアメリカの企業家はほとんど間違いなく機械を購入することになる。このため、これらの要求に応えるべく、様々なタイプの長期延払い制度を提供することになるが、同時に将来の売掛債権の回収に問題がないようにする必要があり、すべての客先に応える制度にはならないことを予め覚悟する必要がある。
そこで、長期延払い制度を採用する前に、一般的な取引条件である据付完了後30日以内の現金決済にも適用する受注条件を設定する必要がある。例えば、契約代金の10%の頭金 (downpayment) を納入前に受け取ることを必ず請求すると決めることもできる。むしろ、10%以上の頭金を請求することが、商品の優秀性をアピールすることに繋がるケースが多い。海外では強気の姿勢が共感を呼ぶことがある。
ただし、頭金の額を決めるには、客先の信用状況のみならず、商品の性格をも考慮する必要がある。耐久・汎用品であれば、万が一中古機になって返品された場合でも、市場性が高く再販しやいので、多くの頭金を要求するまでもない。しかしながら、特注品の高額な機械であれば、他の客先への転売も難しいので、多くの頭金を請求することになるであろう。
長期延払い制度においても同様な考え方をするが、支払期間の長い契約には受け取る頭金の額を増やしてリスクを軽減する。回収リスクの高い商品や契約に関しては、頭金を多く要求するのが普通である。表1、2にて、現金決済および長期延払いでの頭金や延払い期間、料率などの受注条件を参考例として記載した。
汗と涙の結晶である注文書を、支払い可能かどうかの観点からチェックをする受注審査は、極めてデリケートな作業になる。とはいえ、将来の売掛金回収リスクを考慮すれば、現金決済か長期延払いであるかに関係なく極めて重要である。その際、発注先が法人であれば日本でいえば帝国データバンクのような信用調査であるダンレポート (Dun & Bradstreet) を取得し、客先から入手した財務諸表や銀行および取引先の発注先に関する信用状況を加味し、別表のような審査表を基に判断をする。
もし発注先が創業間もない企業であったり、財務的に問題があったりするならば、セールスマンや代理店と真剣に話し合いをすることが最善である。彼らは発注先の事業の先行きを驚くほど正確に予測するのみならず、オーナーの経営姿勢や過去の職歴も知っているのが普通である。ただし、このことは判断のすべてを彼らに委ねるということではない。目的は参考意見を聞くことにあり、最終判断は販売部門から独立した審査部門が責任を持って行なうことが望ましい。
また、アメリカには手形制度なるものが一般的でないということを認識しておく必要がある。日本では支払拘束力のある手形を入手すれば、よほどおかしな会社でない限り支払面ではかなりの確度で安心できる。しかし、アメリカでは何回でも不渡り可能な小切手か、毎月資金繰りを見て決める銀行振込で支払をする。したがって、将来の支払を担保するものは、機械を購入して開始又は拡大しようとする事業の将来性しかないのが普通であり、このためにも、審査の専門家が受注審査をする必要がある。
ところで、アメリカでは日本と比べ創業資金がわずかでも事業を始めることができるので、何回でも事業を始めるチャンスに恵まれていると言われ、数多くの冒険家が一攫千金を狙って事業を始める。そんな冒険家が企画した事業の成功の可能性を、審査部門ではデータを駆使してチェックし、受注の可否を判断するのである。ただし、ここで紹介している長期延払い制度では、冒険家が事業の失敗により倒産した場合でも、担保物件たる機械を取り戻し中古機として再販し、損失の一部又は全部を取り戻すことができる。このため、無担保による資金の貸出よりも、適切な法的手続を行なう限りにおいては資金回収の危険性を遥かに少なくできるので、審査の面で大いに考慮されて売上に繋げることができる。
景気の低迷などによる売上の不振を打開するための様々な販売促進のキャンペーンに、長期延払い制度を活用することは極めて有効である。期間を区切って、「金利なし」や「金利低減」、「一定期限支払猶予」(例えば、購入6ヶ月後から支払を開始する)、「頭金なし」などの方法がある。
GMやフォードなどの大手自動車メーカーは、しばしば「キャッシュバック」といって購入者に現金を払い戻すシステムと併用して、「金利低減」や「金利なし」の長期延払い制度を宣伝し多大な効果をあげている。
製造業者が相手の設備機械でも、この「金利低減」の長期延払いはある程度の効果があることは筆者も経験しているが、一番効果的なキャンペーンは「一定期限支払猶予」に「頭金なし」を組み合わせた長期延払いであり、売上を飛躍的に増やすことが可能である。お金がなくても高価な設備機械を購入できるので、将来の好景気に期待して購入に踏み切る企業家も多い。
ただし、この様なキャンペーンを成功させるためには、客先の支払能力を判断できる審査部門、売上至上主義に陥らないように営業部門を指導できる権限と能力がある責任者、決して諦めない回収グループ、そして中古返品機の修理体制と販売組織などが必要である。
長期延払い制度を実施するならば、間違いなく倒産や下取りにより返品機は出るので、中古返品機の対策を考えておく必要がある。また、全ての機械を現金取引で販売していても、販売台数が増えるにしたがってクレームや下取りなどにより返品機は必ず発生するので、やはり中古返品機の対策は必要である。
5年の長期延払い割賦の場合、5年に亙る客先(債務者)の支払残高 (payoff amount) 表を作成し、それに製造年度別の中古機市場価格表を重ね合わせて見込損失計算表を作成しておくことにより、将来どれほどの損失が発生する可能性があるかのリスク管理ができる。
また、中古機の処理マニュアルを作成し、自社でするか他社に依頼するかは別にして、返品機を修理する工場を指定する。下取機の場合、その下取機発生地域のマネージャーに一定期間中古機の再販を委託するが、期間経過後は全国で販売を行なうなどの返品機処理に関する取り決めをする。殊に、下取機の再販価格が新品機の販売利益を左右することが多いので、どんな業者に何をさせるかなどを決めておき、その場になって慌てないように準備をしておくとよい。
代理店に販売を委託する場合は、異なった観点からのリスク管理が必要となる。販売が代理店経由の場合は、売上伝票 (sales invoice) は代理店に送られ、代理店はそれに代理店のマージンを上乗せして最終客先に代理店独自で売り上げる。
代理店販売の場合、上記の受注審査や与信管理は極めて簡単である。なぜなら、代理店の数は各州に1社程度おいたにしても、数州かけもちの代理店もあるので、多くとも合計で30社程度が普通であり、かつその限られた代理店のみの与信管理を行なっていればよいからである。しかしながら、一面では代理店からの売掛金の回収は極めて難しくもある。最終客先が代金を支払えば、ほとんどの代理店は送金してくるが、ときには、客先からの入金を運転資金や他社機・中古機の仕入などに流用する代理店もある。このため、このような問題を起こす恐れがある代理店については、担当者を張り付け、客先の支払を確認したら直ぐに代理店に送金を督促ができるようにする必要がある。
上記のような問題を起こす代理店もあるので、客先とメーカーが直接契約を取り交わすメーカー主導型の長期延払い契約はこの種の問題解決に効果がある。代理店には、バックマージンの形で販売コミッションを支払うことになるので、代理店は途中で売掛金を受け取る必要がない。しかしながら、代理店は販売コミッションの早めの入手を期待するため、書類の受け渡しに迅速に協力することになる。
近年、アメリカの機械業界では、前号で説明したリース契約や割賦契約に使われる物件担保権設定登記である融資報告書 (financing statement, U.C.C.-1) の登録 (filing) を現金払いのような取引にも適用するようになった。一部の大手優良販売先を除き、手持ち現金で支払を行なう客先にも出荷前にU.C.C.-1を登録している。
この登録により機械の据付完了後30日や60日以内の支払い前に倒産してしまった場合にも、担保権者 (secured party) として、他の一般債権者 (general creditor) に対し優先的に機械を引き揚げることが可能になるのである。登録料 (filing fee) は極めて小額であり、客先も登録されることに拒絶反応は小さいので、受注条件の一項目に加えることができれば安心である。