海外市場開拓のスケジュール (第4回)「月刊プレス成形加工」2003年5月号

前回は、アメリカでの売上拡大のため、販売金融制度をいかに構築するかについて筆者の経験を概説し、日系金融機関との提携ローン制度が販売拡大の有力なツールになったことを述べた

今回、この提携ローン制度を活用して販売する場合に、特に留意する必要があると思われる契約関連の法律や契約書類の役割などについて説明する。提携ローンを実行するに当たって、必要書類の作成法や登録期限などの間違い、遅れにより多大な損失が生じないよう、本稿を制度自体の理解のために活用してもらえば幸いである。

契約関連法典、及び関連書類

1.統一商事法典 (Uniform Commercial Code, U.C.C.)

機械設備などを長期延べ払い方式で販売するときに活用される動産担保取引 (secured transaction) は、1951年に成立した統一商事法典 (U.C.C.) の第9編が適用される。U.C.C.自体は、法律ではなく統一州法案であり、各州において法律として採用されて初めて制定法となるものであるが、現在は全米50州において採用されている。

機械設備のように、債務者側(ユーザーなど)が担保財産(機械設備)の占有を継続することが不可欠の場合、U.C.C.では、担保権者(メーカー又は金融機関など)から見て担保としての安全性を確保する。併せて、通常の商行為によって動産を取得する者からすれば、他の者の担保権に全く脅かされることなく動産の完全な権利者になれるという取引の安全性を保護する規定を定めている。

2.動産担保合意 (security agreement)

債権者 (creditor) と債務者(debtor) 間で有効な担保権を設定するためには、動産担保に関する両者の合意が必要であり、この取り決めのことを通常動産担保合意 (security agreement) と言う。また、機械などの販売に際して販売契約と合体することになれば、客先としては購入資金の手配も購入の意思決定時にすべて完了できるため、購入資金の調達に余計な時間をかける必要がなくなり、忙しい客先にはことのほか便利なシステムになる。この様な動産担保合意と販売契約の一括契約を、筆者が在籍したX社では条件付販売契約 (conditional sales contract) とよんでいた。日本における割賦販売契約とほぼ類似なものである。

契約書には機械を購入する客先の代表者が債務者として署名する必要があるが、担保権者 (secured party) の署名は必要ない。ただし、割賦販売などの将来の定期的支払を定める契約の場合には、相互に確認する意味でもX社では執行役員 (officer) が署名をして、契約書原本のうちの1通を客先たる債務者に送付していた。担保物の記載は物品が識別可能な程度に合理的に特定されていれば、個別に特定された記述でなくともよいとされているので、機械設備の場合はメーカー名とか機種名やモデル名などを記述すれば充分である。

3.譲渡条項 (assignment clause)

もし、金融機関と提携して、前回で説明した長期延べ払い方式のローン制度を実行するならば、上記の動産担保合意 (security agreement) の条文の中に譲渡条項 (assignment clause) が挿入されているはずである。ここには、別段の取り決めがなければ、当該動産担保合意を提携金融機関に譲渡 (assign) する旨の記載がある。このことは、メーカーが客先と契約した動産担保合意を金融機関に譲渡することができることを意味しており、この譲渡を通してメーカーが資金の早期回収を図るものである。

4.リース契約 (equipment lease agreement)

リース取引は、通常、ユーザーである企業などが選択した機械設備などをリース会社が購入し、ユーザーに長期に亙って賃貸する形態の取引である。アメリカではGEキャピタルやCITファイナンスといった大手のファイナンス会社が、業務の一部として提携リースを含め設備機械のリース業務を活発に行っており、加えて、設備機械専業のリース会社も数多く存在する。

アメリカのリース契約に関して特徴的なことは、リース期間終了後のリース物件を、ユーザーに対して公正な市場価格による買取選択権を認めている場合が多いことである。そのことを明確にするため、たとえば、買取選択権価格をリース物件の現在価値の30%とあらかじめ決めておき、リース期間終了後の買取選択権の行使を認める書類を作成している。

5. 担保権設定登録 (U.C.C.1 filing)

リース契約や割賦契約に使われる物件担保権設定登記に関しては、U.C.C.で規定された融資報告書 (financing statement) を、機械の存在する州の登録所に登録 (filing) をすることにより効力をもつ。なお、この融資報告書の登録用の書類をU.C.C.1フォームという。(次頁)

この登録は、機械を客先に納入してから10日以内に行えば、有償対価提供の日に遡って第三者対抗要件を具備する。もちろん、納入前に申請してもその効力は失われないが、以下に見られるようにフォーム自体は標準フォームを使用している州もあるかと思えば、カルフォリニア州などのように独自のフォームによる登録を義務付けている所もあるので注意を要する。登録制度は正確に登録すれば、動産担保合意やその他の書類と併せて活用することで、客先の倒産時にも極めて安全且つ確実に物件を取り戻すことができる。

6. U.C.C.1登録の検索

アメリカでは近年、可能な限り公的な資料を一般に開示しようという動きが高まっているが、U.C.C.1登録データ-ベースについても、1980年代中頃よりカルフォルニア州からその内容の公開を開始し、今ではほとんど全ての州で実施しており、全米のデータを代行取得する会社も存在している。

このため、競合メーカーがアメリカでどの程度販売しているのか、どの機種が売られているか、台数が増えているのか減っているのかを含め、州毎、メーカー毎、機種毎などの区分で取り寄せることにより、マーケットシェアの算出も可能である。

ただし、U.C.C.1登録では購入金額などの担保物の価値は記載されないため、金額面でのデータを取得することはできない。また、通常、30日以内の支払などの現金取引の場合は、担保権設定登記に必要なU.C.C.1登録自体を行わないため、マーケットシェアを算出する商品の現金取引の割合がどの程度あるかを類推して、データを修正のうえ使用することが望まれる。

7.担保権設定登録の遅れなどによる損害とその対応

X社では、レーガン大統領の経済再生のための租税負担の軽減策により、一時リース取引の優位性が顕著になったときを捉え、日系銀行との提携ローンを発展する形で、1982年にリース会社を設立した。このため、リース会社の設立発起人であった筆者は都合13年間 U.C.C.1登録を含む産業機械の販売金融制度に関わっていたが、その間、登録に関して問題を生じた典型的なケースを紹介する。

ミズーリ州セントルイスから車で約1時間の距離にある客先であったが、機械到着の11日後が登録日になってしまい、たった1日だけ遅れてしまった。当時、出荷基準で売上を計上していたため、期末で売上が少ないと焦るセールスマンが、申請書類が客先より発送済みのため、確実に期日前の申請が可能であるとして審査部門のチェックをせかし、配下の担当者に機械を出荷させた結果であった。

この企業は後日支払が滞留したため、筆者がその督促のため現地に出向き、アメリカ人の担当のセールスマンが応接室の片隅で猫のようにお客さんと筆者の顔色を窺っている中で、極めてデリケートな交渉を客先と行った。

客先オーナーの生まれ育ち、特に今までの職務経歴を約1時間以上に亙って聞き、オーナーが業界一筋に生きていたことを確認した後、オーナーの立場にたって話を進めた。そして、業界トップのX社と良い関係を維持することが、今後もこの業界で生きていくためには必要条件であり、その信頼関係を基に最新の技術と設備を獲得して今後の競争に勝ち抜くことがベストであると理解してもらったのである。

しかしながら、X社から見ると支払滞留分を解消しない限り、信頼関係が構築したとは見なさないであろう。そのためには、毎月2回分以上の支払を要求したいところであるが、客先の現状を考えると極めて困難な局面にあると思えるで、当面毎月1回分入金してもらい、半年先から毎月1.5回分を支払うような特別扱いを考えたいとの提案をした。

もちろん、客先は支払の滞留している全ての仕入先に支払うことができるような満足できるキャッシュフローにはない。本来は X社の機械を返却してもらいたいところであるが、担保権設定登記の遅れにより第三者対抗要件が具備しておらず、優先して機械を引き揚げることはできないのである。このため、工場にある他社の設備や機械を返却や売却したりして、事業規模を縮小してもらうことにした。そのことで現金を確保した上、月々の支払額を減らしたのである。それでもなお、困難な局面が続いていたが、筆者の時折の電話による励ましもあり、他社に優先して支払を続けてもらうことで完済に至った。

ここで大切なことは、客先を倒産 (bankruptcy) に追い込まないことである。倒産させてしまうと一般債権者と同じになってしまい、残余財産の僅かな配当を受けるに過ぎないのが普通である。倒産が避けられないと見込まれる場合でも、できる限り債務者たる客先と良い関係を維持し、他の債権者より優先して支払をしてもらうことで回収額を多くすることがリスク最小化の道である。