本連載第1回と第2回では、これから海外市場に進出しようとしているメーカーを念頭におき、サービスのサポートを得ながら、国際見本市の活用をすることで売上が確実に拡大できるであろうことを筆者の経験から話を進めた。
今回からは、景気の低迷が伝えられながらも、依然として世界最大の市場であるアメリカでの販売戦略について話を進めたい。とりわけ、販売と表裏一体でありながら、販売担当者にとっては現地の法律や慣習などの問題から、なかなか本格的には踏み込み難い売上拡大のための販売金融制度と、その制度を支える法体系、および資金回収の仕組み作りを筆者の経験から概説する。
耐久生産財である高額の産業機械や工作機械を小規模の企業に売り込むには多くの困難が伴うが、とりわけ、未開拓の新しい市場に進出したとなればなおさらである。市場に受け入れられる適正な値段を提示する必要があるのはもちろんであるが、品質の優秀さを証明するため、重点地域の客先へ赤字覚悟で販売し、いわゆる拠点ユーザーとして現場でのショールーム代わりに、近隣の見込み客に稼動中の機械を案内して、その優秀性を証明したりすることも大切であろう。
また、24時間態勢でクレームを処理するサービス部隊を組織し、就業時間中の機械稼動を保証し、その実績を示す必要もある。それでもなお、当然買うはずであると思われる大手見込み客は、新しいメーカーの機械を購入して失敗することを恐れ、応々にしてして以前からの機械を購入し続けることになることと思われる。
この結果、市場で一番大きなシェアを占めている競合メーカーから売って貰えない、いわゆるお金がない小規模な客先のみが興味を示すことになるであろう。筆者が所属していた会社(以下X社とする)が米国に進出したときがまさにそのような状態であった。
「確かにいい機械だなー。1分間の打ち抜き回数も他よりはるかに高いし、テーブル上を動く速度も早い。他社機で故障の原因となっている部分も、大幅に改良してある。そして何より価格が魅力的だ。」
競合機のオペレーターであった男はX社が初めて出品した機械の見本市でいたく感心したのである。そして、この機械の価格にこの種の仕事を請け負う際に受取る単価を思い巡らせると、「誰もこの機械の優秀性に気が付いていない。今こそ独立して事業を起こそう。」と、彼は即座に独立を決意した。そこで、お姉さんから2,000ドルを借用すると、会社を設立したのである。「仕事は充分に或る。2年間かそこらで元は取れるだろう。後はX社から機械を買えばいい。」ただ、機械は15万ドルしており、当時のレートで4千万円ちょっとした。
オペレーター時代から知っているX社のセールスマンに、「金はないが、機械を売って欲しい。」と注文書を切ったのである。そのセールスマンは、およそ10年後に独立してソフト会社を設立し大成功を収めているが、「わかった。どうにかしよう。」と請けあった。
付き合いのある日系銀行に相談してみる。「うちは、信用状況が把握できない小規模な地元企業に対する融資はやりません。」と、そっけない返事が帰ってくる。結局のところ、地元のファイナンス会社と相談し、X社が保証すという条件(with recourse) で融資を受けたが、この手続はX社の信用状態が地元の設備金融専門機関にはわからないこともあり、かなり時間がかかった。定型化している割賦販売契約書(conditional sales contract)の条文も、あらゆる面でファイナンス会社が有利なものになっており、弁護士に大幅な修正を依頼したほどであった。
幸いなことに、この企業はその後支払で問題を起こすこともなく、アメリカンドリームの体現者として、ジョブショップ(他社から部品製作などを請け負う工場)の大手に成長し、今では毎年多額の機械を購入しX社の業績に大きく貢献している。
上述したように、販売での一番のむずかしさは、お金のない客先に売り込むということにある。もし、充分に手元資金があるか、文句なしに融資してもらえる銀行なり、金融機関がある客先のみしか相手にしないのであるならこの方式の活用は必要ない。
しかしながら、新規市場開拓のためには、先発のメーカーがためらっている新規に創業した会社や、充分な資金がない会社への販売を積極果敢に行い、それら客先が自社の機械を使って儲けている事実を他の見込み客先に示して、販売を拡大するということを考えなければならない。
一方、小規模な企業のオーナーはほとんどの場合、前身が類似の機械を操作していた職人やオペレーターであるので、競合機との比較表を作成し実地に機械を動かせば、機械自体の優秀性は充分かつ容易に理解してもらえる。
問題は、機械自体の優秀性以外の、客先にとっての買いやすい機械、メーカーにとって売りやすい機械、すなわち相手企業の資金繰りを考えての販売戦略が必要になってくるのである。特に、小規模企業のオーナーは、背広姿の人間と会いに銀行などに行くのを苦手としていることは、洋の東西を問わず、万国共通である。
このためX社はアメリカに進出しているが地元の中小企業との取引には消極的であった日系銀行を説得し、X社が支払保証をするという条件で、銀行との提携ローン(メーカーローン)を始めた。客先の要望に沿って、セールスマンが客先の目の前で月々の支払額を計算・提示できる極めてシンプルな方式である。
このシステムでは、客先の信用状況によって区別しないこと、すなわち客先の支払可能性により金利を上下しないこととした。たとえば、自分の取引銀行で借りればもっと安い金利で借りられる優良客先や、逆にやっと頭金を掻き集めてきた限界客先に対しても同じ金利、すなわち優良客先が取引銀行で借りられる金利に近い金利を適用したのである。
考え方の基本はコンビニエンス・ストアと同じようなもので、一箇所ですべてが済んでしまう便利さと、それを金融の専門家が説明するのではなく、しょっちゅう来るセールスマンが行い、かつ他の金融機関と比べても引けを取らない金利で売り込むことにあり、それもできるだけ簡単な方式にしたのである。
通常、アメリカでは機械ローンの場合、メーカーと提携したローン制度であっても、書類の作成、金利の決定、審査判断などはもっぱらファイナンス会社に依存しているため、メーカーの機械セールスマンのみが客先と融資案件を折衝することは極めて珍しかった。
なお、この提携ローンでは総額をメーカーが銀行に支払保証(with recourse)しているので、銀行は客先の信用状況よりも、提携先のメーカーの信用状況を判断して取引を行い、客先の信用状況が良くない場合にも若干の意見をつけるだけで、納入後に直ちに入金することになる。
セールスマンに対する機械販売のコミッション支払は、銀行からの融資実行後に行っていたため、客先からの書類の授受等に関しても、セールスマンはきわめて協力的であった。加えて、銀行は割賦販売契約書(conditional sales contract)や融資報告書 (financing statement)などの書類作成の行程がないため、一般の金利より有利なレートを提供でき、益々客先から好評を博した。
また、借り入れ資金が常に必要な急成長する客先にとっては、自分の取引銀行の融資枠を心配しないで設備を購入できる極めて便利な制度でもある。メーカーにとっても、客先が銀行と相談している間に競合が入って受注を落とすようなことが無くなってきたのである。
その結果、このメーカーローンによる売上は常に総売上の30%を上回り、特に、大型機械の場合は、その比率は50%を超え、メーカーローンがあるからこの会社から機械を購入すると明言する客先もいるほどに売上は急上昇していった。
銀行にとっても、独自にこの種の動産担保融資 (secured loan)を行っていれば、見込み先の信用状況のみをみて判断して融資を決定し、万が一支払不能になった時のリスクを負わなければならない。しかし、このメーカーローンは総てのリスクをメーカーが負担する、極めてリスクが少ない案件で確実に利益が見込めるものである。
同時に、銀行はメーカーの関与報酬(participation fee)として、年利0.25~0.50%程度の金利を銀行の受け取る金利からメーカーに払い戻した。その額は融資額の増加に伴い年々増加し、いつのまにか利益のかなりの部分を占める金額になることに気がついた。
ただし、このお金は将来客先が倒産し回収不能になった時の損失のリスクヘッジ口座として使われたので、銀行との契約が切れて融資残高がゼロになるまでは、その銀行の口座に留保されたまま引き出さすことはできないこととした。
アメリカでは一般的に金利に対し極めて敏感であり、特に自動車販売などでは売上げが振るわなくなると、初めに手がける販売促進策の一つに「ゼロ金利」が使われる。企業が購入する産業機械や工作機械でも、「ゼロ金利」や「低金利」の効果は、一般向けの自動車には及ばないが、ある程度の効果が見込まれることがあり、ときどき重宝していた。
そんなときは、銀行との間で決めた金利を下回る部分をメーカーが負担するが、銀行との関係が良好であれば、ある程度の金額を銀行に負担してもらう方法もある。
ただし、この「ゼロ金利」や「低金利」での販促ではなく、ある特定の機種を選定し、通常より少ない額を毎月払えば購入できるとして宣伝する方法もある。特に旧式の機械の在庫が多く、ピンポイントに特定機種を狙い打ちたいときには、とりわけ効果な販売ツールであった。
また、この長期延払い方式で販売促進に一番有効な方法は、「バルーンペイメント」といわれるステップアップ方式、すなわち最初の月の支払が少ないが、徐々に時間の経過と共にその支払額を増やしていくやり方もある。
もっと販売を促進したいと思えば、この方式に、例えば、5年後のローン期間終了後に、メーカーがある一定額や率(例えば、売値の20%)での買い取りを事前に決める方式もある。
加えて、輸送費や据付試運転費用などはメーカー払いにしたうえ、最初の6ヶ月間は頭金も月の支払も受けとらずに、6ヵ月後から支払を開始する方式にすれば、ほとんどすべての購入希望者に機械を売ることができる。そして、多くの新規客を獲得することもできることは筆者も経験済みである。
ただし、このような販売促進を重視した手法は、やり方次第で後日、大きな荷物を背負わされることになりかねないので要注意である。この顛末の詳細は次号以後で記載する予定である。