設備機械の取引は、B to B (Business to Business) といわれ、生産者市場や公共機関市場などの法人を対象としたビジネスであり、このためこのB to Bでは数多くの一般大衆相手の消費財とは異なり、限られた数の見込み客を分類し、その分類された見込み客にどのようにアプローチしていくかが販売戦略の基本となる。
このため、かつて筆者が所属していた産業機械の大手メーカーでは、いかにこの販売戦略を効率的に機能させるかに全力が注がれていた。とりわけ機械の展示会が、自社の機械の独自性、優秀性、操作性等の良さをアピールできる絶好の機会であると認識しているので、見込み客先の関心が分散される一般見本市等への出品をやめ、もっぱら自社の機械だけを展示するプライベートショーへ誘客することに重点が置かれている。
この自社展示会、プライベートショーに数多くの見込み客を招待し、極めてアットホーム的な雰囲気の中で、仮契約という非拘束型の購入契約を締結して貰うことがセールスマンの最大の勤めであると言っても過言ではない。
また、筆者が記憶する範囲では90年代後半までは日本国内での展示会の場合、招待客の約70%が仮契約を締結したが、同様な展示会をアメリカで行った場合にはその比率が30%に落ちていた。しかしながら、本契約締結といった確定受注の比率は、仮契約をサインした見込み客の中で日本では約25%、アメリカでは70%前後になり、結局のところ日米共に100社の招待客の内、確定受注にいたる客先は20社前後の確率であった。
このことは何を意味するだろうか? 個別に(グループでも構わないが)、目的をもって特定の機械を見に来る見込み客の約20%が機械を実際に買うことになるということであり、その比率は国を跨いでほぼ同一であることを意味している。
しかしながら、設備機械は景気の動きに大きく左右されるので、確定受注の比率はやはり好景気には高く、不況期には低くなりがちではある。しかし、自社展示会への誘客行為自体が受注への近道であり、確実なる事前準備と適切なるフォローアップを行えば、展示会活用の効果が大きいことは変わりない。
確かに、自社独自の展示会を適切に開催し、フォローアップを行えば、約20%前後の招待企業から確実に受注にいたることは明白であるが、はたして展示会開催に至る経費との関連からその成果は採算が見込まれるだろうか?
自社独自の展示会の場合、招待客に対して旅費交通費等を負担することが普通であるから、その経費を見ると、筆者の経験からではアメリカでは全米各地からの飛行機代、ホテル宿泊料、飲食代等を入れると一人あたり約800ドル、10万円程度になり、日本では5万から7万円位の間であり、費用負担を1社1人に制限しても、かなりの金額の出費が要求されることになる。
これに先程の成約率を勘案すると、機械1台を売るのに、一社5万円としても、(5万円÷20%)で約25万円かかることになる。会社経営にはこの展示会経費以外の経費も見込んでおかなければならないから、かなり高額な機械やシステム商品を売り込むのでなければ、自社独自の展示会で自社の機械のみを売り込むことはかなり難しいことになる。
それでは、確実な受注が見込めるこの展示会の手法を活用しつつも、費用を掛けずに効果的な成果を期待できる方法はないものか? ことに、日本とは文化的な風土も異なる海外で適応できる方法はあるものだろうか?
先述したアメリカの例では、その後、他人に自分の行動や判断を左右されることを嫌う国民性を考慮して、仮契約受注をやめ、招待客全てをフォローアップする方法に変更しているが、その結果のフォローアップ率、即ち招待客がその後一年間に発注する確率は、前記と同様に約20%になっているのである。
そのことは、他社機も展示されている見本市でも、もし適切なる事前のアプローチと確実なるフォローアップを行うことができるならば、独自の展示会に近い成果が期待できることを示していると思える。特に、客先のニーズを熟知している代理店が、如何に自社機に関心を持ってもらえる客先を集めることができるかがキーポイントとなる。
このため、見本市を効果的に活用し、確定受注につなげるシステムに構築を行った上で、出品経費が少なくてすむ地方自治体等が推進している海外国際見本市へ出品するならば、経費を抑えた効率的な受注拡大が可能になるであろう。
下図で見られるように、機械販売では一件の受注を得るため、何件かの「リード」があり、その「リード」を得る為、何件かの「プロスペクト」、そして何十件かの「サスペクト」と、各段階の見込み客を如何に発見獲得し管理するかが販売の鍵になっている。
逆の見方をすれば、一台当たり500万円の機械を販売している会社の場合、一年間の機械本体売上目標を10億円とすると、約200台の受注が必要になるが、その内の半分100台を展示会からの売上に依存するとすると、500社の「リード」の見込み客を招待し、内100社からの受注をしなければならない。
ただ、海外売上を全体の30%程度と考え、上記と同じ様に展示会売上を全体の半分と仮定すると、海外の展示会では500社の30%で150社を招待し、30社から受注する必要がある。年2回、海外の展示会に出品するとなると、1回の展示会で75社程度の客先の招待、15台の機械受注、受注総額7,500万円となる。
まるで数学の確率のような有様だが、このことを念頭において予算を立て、その予算の遂行状況を見守るように今後の海外展示会の出品計画を立てられことをお勧めする。 例えば、展示会開催地にある代理店に75社以上の「リード」見込み客先の招待を義務付け、その客先に対して事前に訪問したり、手紙を出したりして展示会への出席を依頼すると同時に、安心感を持って機械を買って貰うために自社のサービス体制を充分に説明すれば、展示会での機械のデモンステレーションに納得し、成約率も高まるに違いない。少なくても、自社展示会と同程度までの15台、7,500万円の受注ができるようになると思う。
また、75社以上の「リード」見込み客先のプロフィールを作成させ、その中に会社名や営業品目、主要設備、訪問履歴等々を代理店に記載させ、来場時に直ちに対応ができるように手元に備えておくと大変便利である。客先のプロフィールが事前に判れば、展示会での対応は見違えてよくなるに違いない。
しかし、総ての確定受注がこの展示会場で受取れるわけではないし、展示会によっては受注活動を禁止しているところもあるので、問題は展示会終了後のフォロ-アップをいかに進めるかにある。例えば、予定どおり75社の見込み客があったとした場合、その75社からの受注進捗状況を、代理店から定期的に報告させ、どのようにすれば受注できるのかの把握を行う必要がある。
提示した値段が高すぎて難航しているとか、仕様の追加があるとか、競合メーカーが好条件を出したとか、様々な要求を聞くことができるフォローアップを送らせることで日本の対応も可能となる。その結果、現地に飛んで代理店を交えて見込み客と話し合いをする必要が出てくるであろうが、それにより早い受注に繋げることができれば、それこそフォロ-アップの成果である。
このような地道で少々面倒なプロセスを、メーカーと共に着実に行う代理店が多いとはいえないが、今まで代理店管理の経験を積み重ね、オーナーなどと信頼関係を築いているベテランに、代理店の選択と管理をアウトソーシングし、そのベテランを介して詳細現地事情を把握しつつ今後の対応を検討できるならば、理想的である。
また、発注する確率が低い「プロスペクト」や「サスペクト」の見込み客をいかに発注確率が高い「リード」見込み客に転換していくかの作業を行わなくては、何時かは「リード」見込み客が他社に行ってしまうかも知れない。このため、これらの見込み客に対して、Webシステムやファックスを使った新商品や納入先の自社機械応用例等の技術情報発信を英語等で行って、世界最先端の機械を購入する実感を得てもらう方法もある。
なお、費用の面からみると、この海外見本市では、自社独自で行う展示会と違って、事前の調査や事後のフォローアップ時の出張費を除けば、機械の出品や日本からの出張関連の負担のみだけであり、且つ自治体の補助もあるので、比較的単価が低い商品を扱っているメーカーにとっては、極めて効率が良い売上促進策になると思う。
機械業界に籍を置いた関係で、筆者は退職後時折中古機の買取や販売に携わる時もあるが、ある時その種の機種ラインを不採算の理由から生産販売を停止したある大手メーカーの機械の引き取り要請がリース会社からあった。ちょうど10年前に約7,500万円で新品として購入したものであったが、該当する機械の機能性が低いこともあり、倒産直前まで問題なく動いていた機械にもかかわらず、この機械の価値はスクラップか解体後の部品価格にしかならず、買い取りを断念した。この企業はすでにこの種の機械のサービス組織を解消しており、もし中古機で購入した場合に、サービスを受けられない恐れが市場価格に反映し、この会社の機械の中古価格を市場自体が無価値のものにしてしまった。
通常、新品機を購入する場合、企業は倒産することを前提に機械を購入することはまずあり得ないと思うが、保有する機械の価値が高く維持されることは、時価会計制度が普及し、常に企業の価値が市場で判断され、銀行からの融資自体も土地の価値だけではなく企業全体の価値を勘案する等、企業価値を見据えた企業間取引が活発化し始めた時代には極めて必然的、かつ必要なものになっている。それゆえ、保有する機械の価値を高く維持するためには、単に客先より要求されたクレーム処理を適切に行うサービスだけでなく、予防的なメンテナンス込みのサービスも定期的に提供する必要があるので、このメンテナンスサービスも併せて行うことを考慮してみると良いと思う。
海外市場においては、日本からの距離的な問題もあり、品質優秀な日本製品といえども、身近にサービス組織を置いていることをアピールすることが大切であることはいうまでもない。とりわけ、自社の中古機械に関しても、でき得る限り技術情報を提供して、機械が問題なく稼動できるような体制をとることが、ひいては新品機の販売にも跳ね返ることは先に見た通りである。
また、これらのサービスに関しては、でき得る限り自社で行うことが望ましいが、人材面や資金面でむずかしいならば、他社のサービス組織をアウトソーシングとして活用する方法もある。 設計等での構造上の問題から来るいわゆる「重サービス」以外の、メンテナンスを含めてのクレームを現地で処理して貰うことも、しっかりとした組織に、適切なる契約で依頼をすれば問題ないと思うし、むしろ中堅企業にとって海外でのサービスに関してはこの手のアウトソーシングのほうが効率的と思われる。
上記のサービス業務以外にも、新たに海外市場を開拓する中堅企業にとっては不案内な業務が(外国語で行うために)数多く存在する。かつては,将来拡大する業容にあわせて、内部で適任者をピックアップし養成していくか、外部から即戦力を招聘するかという二者択一を迫られていた。しかし、将来が見えない不確実な時代には、限定された業務に内部の専任者を配置するのではなく、常に採算を考えたプロジェクトとして、これらの業務を遂行していける外部のアウトソーシング機能を活用していくことが賢明であると思われる。
むしろ、今まで数多くの海外プロジェクトを手がけ、長期に亙る海外駐在を経験した人材グループに、一連の海外業務を新規のプロジェクトとして依頼することができるならば、人材と経験の乏しい中堅企業といえども、一夜にして大企業並みのシステムを構築することができるに違いない。
しかしながら、海外関連の人材は、その長い海外生活や海外相手の業務に専任していたことから、概して国内メーカーやその関係者に知り合いが乏しく、海外業務に没頭していた有能な人材ほど社会の片隅に埋もれているといっても過言ではない。このため、我々はこれら有能な人材のネットワーク化を図り、ネットワークの総力を結集して、国際化の進んだ多国籍企業にも劣らない業務処理能力を果たせるチーム造りを進めている。
そして、上記の国際見本市への出品やそのための事前準備、フォローアップ、現地のサービス組織、資金回収を含めた事務処理機構等を詳細,かつタイムリーに管理できる人材で海外進出プロジェクトチームを結成し、これから海外市場に進出を希望する中堅機械メーカーに対し、双方の出会いの場を提供することにしている。