海外市場開拓のスケジュール (第1回)「月刊プレス成形加工」2003年1月号

長期化するデフレの波の中では、国内市場だけで売上を伸ばし、利益を確保することは極めて厳しいことは論を待たない。とりわけ、親会社や納入先からのコスト削減の要請を受けて、数多くの企業が雪崩を打って海外、特に中国にその製造拠点を設け始めている状況では、なお更である。

本来国内で行なわれる設備投資が海外に向かって行っており、その流れはこれからもっと大きくなるに違いない。加えて、進出先の国においても、原材料や部品の現地調達を図り原価削減を目指す進出日系企業の努力もあり、いまや地場産業が大きく成長して各社それぞれ独自に最新の設備機械を購入するに到っている。

そんな中で、海外に進出して地場企業に設備機械を販売しようにも、人材と資金があふれブランドが浸透している大企業ならいざ知らず、一般企業においては、英語やその他の外国語を駆使する人材も資金的余裕も共に無い中では唯々立ち尽くしているのではないだろうか?頼りの代理店ですら、できたら手離れが良い名前が浸透している大企業の商品を扱いたいものだと、関心すら示さないのが実情ではないだろうか?

それでも、時折自治体から来る国際見本市の補助金付出品の話に乗って参加するものの、毎日の多忙な業務の中での出張だけに、出品機の説明パネルの展示も、展示場でのアテンドも、来場者に渡すパンフレットも、前回の来場者リストからのフォローも不十分のままの参加になる。時折説明を求めてブースを訪れる来場者に出品機を動かしてその優秀性を訴えても、値段を聞いて「ツー エクペンシブ (高すぎるよ)」と立ち去る見込み客を黙って見送るメーカーが多く見受けられる有様だ。

また、同業大企業で働いていた人材をヘッドハンティングして、海外向け輸出を担当して貰っても、はたまた現地に送り込んで販売を任せてみても、なかなか成果は上がらないケースもある。なぜなら、殆どの大企業は販売といえども、分業的なシステムを組んでおり、その企業を創設した創業者などの僅かのトップを除いては、全体の隅々まで組み込まれているシステムを熟知し、転職した企業に足りないシステムを新たに構築し、それを有効に動かしうる人材は皆無に等しいからだと思う。

それでは、優秀な商品を持ちながら海外進出を前に途方に暮れている企業はどうすれば良いのだろうか?筆者は過去アメリカで、安かろう、悪かろうとの評判が浸透していた時代から約16年間滞在し、殆ど無名だった日本の産業機械を世界有数のブランドネームまで育て上げた現地法人で、マネージメントの一員として市場開拓に携わってきた。帰国後、本社の海外関連部門で数々の海外の新規市場開拓プロジェクトにも関与し、何が一番効果的な方法かを模索しながら、約10年間海外市場開拓を推進致してきた。

日常業務の追われて多忙な毎日をお過ごしの機械メーカーの方々に幾らかでも役に立てることができるよう、そんな経験に基づき機械メーカーのための海外市場開拓のスケジュールを提案致すことにした。

1.事前準備(市場評価、及び判定)

ここでは、まず狙うべきマーケットを定める必要がある。成長著しい中国市場か、日本語堪能な人材が溢れ国内と見間違いをするほどの韓国か、はたまた台湾か。それとも進出日系企業やその関連企業に狙いを定めて東南アジアか。景気後退期に入ったとはいえ依然巨大なマーケットである北米市場か。技術を試す意味で欧州市場に行くか。それともまた、インド、中近東、南米、東欧といったニッチ市場を狙うか。

様々の思いが巡るのは当然といっていい。人材と資金、そして現地企業との技術格差や輸送コスト等を考えると、すでに関係者が販売をしている韓国や台湾以外には、中国か東南アジアという選択肢になる可能性が大きいだろう。アメリカという考えもあるが、「小規模輸出では儲からないよ」という声に押されてしまう可能性もある。

ともかく、進出先が決まったら、まず自社の商品を誰に販売して貰うか、いかなるチャンネルがいいのか、アピールの仕方はどうなのかということに思いが浮かぶに違いない。それも、なるべくコストの安い最も効果的なやり方は無いのかと考える。大きな商社を通して販売しようとしても、デフレ経済で利益の出ない商社は、いまや大企業が製造しているブランドネームがある手離れの良い機械を中心に扱いたいと願っているわけだから、なかなか話にはならない。話になっても、こちらの利益は、無視されてしまうことになる。

やはり、自分で出かけて数ある代理店のなかから自社の競合を扱っておらず、自社の商品をよく理解できる現地の代理店を探し出すか、誰か知り合いに頼んで探してもらうかということになる。

現地代理店には、できたら専任の担当セールスを決めて貰い、自社の商品を心底好きになってもらうために、現地語か、少なくとも英語の解説付きの商品デモ・ビデオかCDを持ち込んで、説明されることをお勧めする。そして一般の見込み客には、英語のカタログかフライヤー(簡単な一枚のカタログ)を準備し、代理店の販売活動をサポートする必要がある。

これらの説明がうまくいき、商品の市場性がありと判断されれば、後は現地の要望を入れた仕様を決定することになるが、最後はその仕様にして幾らで現地売りをするのか、代理店等の手数料を入れて本当に日本側に利益が生じるのか、詳細に検討しなければならないだろう。

ほとんどのケース、最終小売価格は日本でも海外でもそんなに大きく変わないから、途中の海上輸送コスト等を考えると、海外向けの商品の工場出値は国内向けより若干低くなる傾向がある。では、なぜ国内販売より利益率が低くなるのに、大企業は輸出をするのだろうかか?

これは、我々海外畑の人間が、国内畑の人たちに常に問いかけられ続けた命題である。海外で競争して初めてグローバル企業になる、技術力が磨かれるなどいろいろの理由が考えられるが、筆者が思うには、やはりボリューム(生産量)ではないだろうか。海外販売をすることで国内販売のみを行なっていた時より生産が増え、必然的に量産効果でコストが下がる、それが国内販売のコストにも影響して、国内でも競争力がアップするという図式ではないかと思う。

輸出価格が、ドル建てなどの現地通貨建ての場合は、為替のリスクを見なくてはならないから、商品の市場性があると判明した後で、本格的な輸出戦略を立てるときは、必ず輸出損益を立てて損をしない方法を考えておく必要がある。とりわけ、中国向けの輸出などでは、確実な資金の回収や取立てを図るため、最善の努力をすることが肝要である。

なお、海外のマーケットによっては、その地域独自の安全規格等に対応して日本側で設計変更や使用部品の変更が必要なときがある。アメリカではOSHA、ANSI、ULなどの規格、欧州ではCEマーキングがよく知られているが、認証の取得方法次第では掛かる費用に違いがあり注意が必要である。

2.海外国際見本市出品

現地販売代理店の促進活動だけでは、ほとんどのケースで売上が充分には上がらないだろうし、代理店自身も十分な見込み客を抱えてはいないから、可能の限り進出を希望する市場で開催される見本市に出品し、見込み客の発掘をすることが必要である。

特に、余り費用を掛けずに海外の市場動向を見極めに、特定市場での見込み客先を探すのなら、地方自治体が推進している補助金付共同出品を効果的に活用することを勧める。費用的にも、アジア市場での展示会への出品ならば、人員の派遣費用を含めてもそんなに多額にはならないはずである。

ただ、自社からの技術者等の派遣も含めて、あまり多くの費用が掛からないということ自体と、日常の忙しさが準備不足やフォローアップの欠如を生み、展示会出品そのものを効果的で無くする恐れはある。常に日常の業務に追われている状態では、非日常的な展示会の準備やフォローアップができなくなるのはやむ得ないであろうと思う。しかしながら、傍目で見ていると、いま少し出品準備から展示、そしてアフターケアまで、もう少し充分に用意できれば、かなりの受注が期待できたであろうことを考えると大変残念に思うケースが多い。

この準備からフォローアップまでのプロセス、すなわち展示方法、誘客、セールストーク、カタログ作成、情報収集、フォローアップの諸々のやり方をマニュアル化して、現地の代理店をも含め実践させるシステムを構築させることで、この見本市を成功させることができる。そして展示会開催前に予め確実な見込み客を掴むことで、展示会をそれらの見込み客先からの受注を受け取る場にすることができる。

3.サービス、及び販売網の整備

品質の優秀性、価格の妥当性が代理店や見込み客先に納得された後で、代理店や見込み客から質問されることは、サービス体制や部品の供給体制の問題であることは言うまでもない。故障の問題は全くありません、といったところで、遠く離れた日本からの高価、かつ精密な商品を購入するわけだから、心配するのは当たり前である。むしろ、代理店や見込み客先が心配する前に、その心配を払拭しておかなければならない。

最善の方法は、アフターサービスを専門にするサービスエンジニアーを現地に常駐させ、24時間体制でその問題に対応することだが、たとえ一人のサービスエンジニアーを現地に常駐させるにしても、一人当たり2千万円以上の経費が掛かる現状では、採算面からいってもかなりむずかしいことであろうと思う。

それでは、発生ごとに日本から出張することも考えられるが、どの程度クレームが発生するかわからない状況では、やはり突然の対応にはむずかしいし、費用の点からも大変である。言葉も、現地の地理も共に明るいサービスエンジニアーが常に日本の本社に待機しているということは、よほどの大企業でなければありえない話かも知れない。

その問題を解決するためには、進出国や地域のサービス専門会社と提携し、クレーム処理サービスの提供を受けることにしたらどうだろうか?機械本体の欠陥や設計上等の問題から生じる、簡単には解決がむずかしいいわゆる「重サービス」については、日本からエンジニアーを派遣するにしても、それ以外のサービスは現地で即時対応することにより、客先からの信用は大いに高まり、販促の手段として活用できることは間違いない。

また、これらのサービスに対応する部品供給に関しても、必要に応じて現地サービス会社に在庫させることができる。ただ、サービスを開始するに当たっては、現地サービスマンを日本の本社で教育することになるだろう。

加えて、これらのクレームサービスや部品供給を現地で外部委託するに際しては、円滑に業務を遂行するために、取扱説明書、サービスマニュアル、パーツリスト等の技術資料を英語化しておく必要がある。

併せて、本格的に海外販売を開始するには、販売関連資料を現地語化か、少なくとも英語化をする必要がある。それらの資料があれば、現地の代理店や見込み客先にその商品の良さを理解して貰うことが、より容易になるはずである。

4.管理体制の整備

上述したように、現地代理店や客先からの不安を払拭するために、部品供給やクレーム処理等を現地処理する必要があるが、そのためには現地で速やかに処理できるように日本側の体制を整備する必要がある。部品供給やクレーム処理を現地側サービス請負業者や客先から検索かつ依頼できるWebシステムを構築し、日本側からは現地の客先や代理店に迅速、誠実に対応して、客先からの信頼感を勝ち取るやり方を取ってみたらどうだろうか?また、それら関係先に新商品情報の発信等も併せておこなえば、客先は御社をより身近に感じるはずである。

また、機械の輸出手配や手続に関しては、機械の引取り、梱包、船積書類の作成、海上保険やP/L保険の付保、そしてL/C買取手続を含む売掛金回収処理等をする必要があり、担当者を決めてその業務を習熟させることができればいうことはない。