法律英語あれこれ (その1 - 英文契約書)

英語で契約書を作成する際の注意点や問題点、それに相手先企業や現地弁護士との対応の仕方など、英文契約や法律英語にまつわる話を掲載しています。

第10話 英文契約書は、旧式を新式にすることも簡単!

2009年8月3日

これまで、従来主流の慣行に従い契約書全体で一文を成す伝統的な旧式の契約書について記してきたが、それは、Plain English(平明な英語)の運動に反する面があり、また、英米法を基にするため、大陸法の国との取引の場合しっくりしない面もある。

Plain Englishの運動に沿うことと、英米法以外の法体系の契約書にすることは、別個の問題であるが、形式については、英米法を基にする旧式の契約(第6話)を次のように変えれば、概ね両方の問題に対処する新式の契約書にすることができる。

  1. 冒頭の”This Agreement, made …”を”This Agreement is made …”とし、これで始まる文を独立の文としてピリオドを付して完結させ、”Witnesseth (That):”を削除する。
  2. 上記1.の結果できる冒頭の文の直下(削除する”Witnesseth (That):”の辺り)に、「説明部分」の意の”RECITALS” か「前文」の意の”PREAMBLE”を置き、かつ、続く接続詞の”Whereas”の語を全て削除し、残る各文を独立の文としてコンマに代えてピリオドを付して終結させる。最後のWhereasの文の直前にある”and”は、削除する。
  3. ”Now Therefore, in consideration of the mutual covenants herein contained, the parties hereto agree as follows:”を削除する。英米法の契約の場合残してもよい。
  4. 上記3.の削除をする場合、最後にある”In Witness Whereof, the parties hereto have executed this Agreement the day and year first above written.”を削除する。(これを残す場合、”Whereof”は、”Thereof”か”of the foregoing”とするのが望ましい。)

上記は、旧式の契約書を形式の面で新式にする方法を大雑把に述べたものであり、特に契約の条文などについては、別途の検討が必要である。ただし、契約の条文は、英米法を基にする契約もそうでない契約も同じ様にしても大きな問題はない。


第9話.”consideration”は、基本的意味は「考慮」であるが、さらに考慮すべし!

2009年7月27日

”consideration”は、英和辞典によれば、「考慮」;「考慮すべき事柄;理由」;「報酬、チップ」;「対価」などと訳してあるが、専門書によれば、英米法の用語としては、普通の国語辞典には掲載されない「約因」と訳すべきとされ、「対価」でもよいとされる。

「約因」は、英米法の概念であり、契約上一方の約束に対する他方の反対給付または反対給付の約束であり、対価ともされるが、見返りとも言える。英米法では、契約は、約因がなければ、法律上強行可能(enforceable by law)でなく、すなわち裁判上実現可能でなく、有効ではない。例えば、300万円の車の売買契約は、「車を引渡す約束」である売手の約因と「300万円を支払う約束」である買手の約因があり、法律上強行可能である。他方、300万円の車をくれてやるという約束は、もらう側の約因がなく、有効ではない。契約には、当事者間にギブ・アンド・テイクの関係が必要なのである。

“consideration”の語は、典型的な用例として、契約書で既述のとおり”Now Therefore, in consideration of the mutual covenants herein contained, the parties hereto agree as follows:” と記される。これは、本の訳し方をすれば、「よって、本契約に記された相互の誓約を約因として、本契約の両当事者は、次のとおり合意する。」となる。

ところで、”consideration”を本に書いてあるように「約因」と訳しても、甚だ分かり難く、本当は、最初に挙げた辞書の訳のいずれかを当てた方が日本語としては分かり易いと思われる。そもそも、上記の様な「約因」も根本的には例えば「考慮」と相通じるに違いなく、それに、英米人も、”consideration”の語は知っていても、誰でもが上記のような「約因」のことを知っている訳ではないはずである。要は、英米法の「約因」の意味を理解することが第一であり、訳語はその次でよいと思われる。


第8話.英米の契約書は、日本などとは、言葉だけではなく、考え方が全く違う。

2009年7月20日

これまでに、英文契約書について記したが、それは、元々英国や米国などの英語圏で国内取引に用いられたものであり、英米法(Anglo-American law)に基づくものであって、日本やヨーロッパ大陸諸国などとは、根本的な考え方が全く異なる。

英米法は、英国の法律およびそれを受継いで発展した米国などの法律の総称であって、大陸法に対立するものである。大陸法は、ドイツやフランスを中心とするヨーロッパ大陸諸国の法律であり、ローマ法の影響を強く受けており、第何条のように条文で書かれた成文法である。これに対して、英米法は、英米とカナダやオーストラリアなどの法律であるが、法典を作らず判例や慣習の集積である判例法を中心とするものである。英米法は、特に大陸法と区別して、コモン・ロー(common law)(普通法)と呼ばれることも多いという。なお、コモン・ローは、多義であるが、普通、立法府が定める制定法体系に対して、判例法の形で集積された慣習法体系をいうとも言われる。

因に、判例法を中心とする英米法の国であっても、勿論制定法もある。また、日本は、大陸法系であるが、それでも、憲法、刑事訴訟法および独禁法などは、英米法(特に米法)の影響を受けていると言われる。

ところで、英米法に基づく契約は、法典がなく明文の規定を欠くため、当事者双方が詳しい規定を設けようとすることもあり、長くなるという特徴がある。また、理由として、例えば、”Parole Evidence Rule”(口頭証拠排除法則)というのがあり、契約交渉中の主張や了解などは、契約書に記載されなければ、無効とされるからでもある。

とまれ、国際的な取引では、英文契約書を作成することになるが、ヨーロッパやアジアなどの国を相手とする取引で、英米法の契約を締結する必要はない。


第7話.Plain English(平明な英語)で書くべし!?

2009年7月13日

これまで、古めかしい法律英語について書いてきたが、米国では、Plain English(平明な(分かり易い)英語)を書こうとの運動があり、多くの州で、Plain English Law なる法律もある。なお、古めかしい英語について記したのは、その様な英語が、あたかも「常識」であるかのように現に使用されており、対応する必要があるからである。

Plain English の運動は、第2次世界大戦中米国で命令や規則が分かり難いとの苦情が多かったため、連邦政府が法文を分かり易くしようとしたのが発端のようであり、カーター大統領が Plain English の推進のための行政命令を出した。こうして、米国の多くの州で法律が制定され、一般消費者を相手とする契約書は分かり易い英語で作成するように義務付けられた。また、契約書は一般的に法律の専門家以外でも理解できるように平明な英語で書くことが求められるような社会的風潮が生じたようである。

Plain English の方法としては、平易な言葉を使うほか、文を短くすること、否定語を避け直接的表現をすること、受動態でなく能動態を使用することなどが挙げられる。

ただ、Plain English の法律や運動にかかわらず、国際取引の実務上は、今なお既述の一般的ではない単語や古めかしい言葉を使用した法律文書も少なくはない。それに、既述の”Witnesseth”など古色蒼然とした言葉を含む伝統的な契約書は、案として契約の相手方から提示されることも多く、またその様な契約書を起案した方がやり易い場合もある。なお、米国が長く世界市場で主流の座にあったためか、欧州やアジアなどの国々からも英米式の古臭い英語を使った法律文書が送られてくることも少なくはない。

従って、分かり易い英語を書くように心がけるべきであるとともに、従来の慣行を認識し、古めかしい英語をも理解し状況によって対応する必要がある。


第6話 英文契約書は、古色蒼然の風貌でも、形式を知れば、見かけ程でもない。

2009年7月6日

英文契約書は、伝統的には既述のとおり全体が長い一つの文で成り、古めかしい言葉が使用されるが、飾りの様な形式があり、これが解れば、難しいこともない。

伝統的な英文契約書は、全体が長大な一つの文として構成され、そのためにも古色蒼然とした文句が使用されるが、その構成の要点は、次の6点に過ぎない。

  1. “This Agreement”(本契約)の語で始まり、これが契約書全体の主語となる。
  2. 次に、“Witnesseth (That):“なる語がある。”witnesseth”は、「証する」の意の動詞”witness”の三人称単数直説法現在の古形であり、上記(1)の”This Agreement”を主語とし、以下に続く契約書の全部分を目的語とし、全体を一つの文にする。
  3. 次に、“Whereas”の語で始まる文(whereas clause)が続く。”whereas”は「...であるがゆえに」の意の接続詞であり、これが導く文は、文法的には独立の文ではなく従属節である。ただし、”Whereas”で始まる文は、一つひとつが日本語で言う前文に相当し、和訳では、”Whereas”は無視され、独立の文の様に訳される。
  4. 次に、”Now Therefore, in consideration of the mutual covenants herein contained, the parties hereto agree as follows:”(よって、本契約に記された相互の誓約を約因として、本契約の両当事者は、次のとおり合意する。)と記される。
  5. 次に、上記(1)~(4)の前口上の後に、契約書の本文(条項)が記される。
  6. 最後に、”In Witness Whereof, the parties hereto have executed this Agreement the day and year first above written.”(上記の証として、本契約の両当事者は冒頭記載の年月日に本契約を作成した。)と記され、両当事者が契約書に署名する。

上記で、(5)以外は、長い伝統的契約書の特徴であるが、契約の要目ではない。


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